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「除夜にひとつ」

新聞連載詩・2016.12.31大崎タイムス掲載より

「除夜にひとつ」VOL.96

ひとつひとつ
梵鐘を撞く
やり過ごした感情に
塊になった固執に

ふたつ みっつ
私が持ち合わせた
むっつの根
眼耳鼻舌身意
それぞれの好悪平
その浄と染を
さらに前今来の三世へ
己の煩悩を撞く

ななつ やっつ
親指の腹で数珠玉を
空に押し出しながら
いまではない時間の
出来事に身を進める

じゅうに…
私の生きたこの一年
その歳月を思う
十二の月の
その二十四節気と
七十二候の葉を
拾い集める

しじゅうく…
あなたに起きた
四九の混迷と
私が背負った
八九の罪を
掛けて 足して

ひゃくななつ
歳があらたまる
もうひとつ撞くのだ
正しいように
生きようと願っても
なかなか思うように
いかないものだ
様々な事象があり
幾多の心模様が残る
時に漂流し氷結した

欲がゆえの悩み
それから派生する不満
そして猜疑と苦悩
このような悩みは
けっして正しくない

親指に温もりが戻り
脈動がゴンと鳴る
百八つ目の珠の音

いま清らかな白が
舞い降りて
新たな季節が
私の指先に届けられた




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「いまこのときに」

大崎タイムス連載詩・2016.12.24掲載より

「いまこのときに」VOL.95

あきらめていないか
その先にしかないのに

なげいていないか
その一員であるのに

悪口を言っていないか
その原因は私なのに

逃げている
その壁が高いから

見ぬふりしている
その責任が及ばぬよう

自分だけが正しいと
思い込んで
あなたを
傷つけていないか

ただ自分のために
ありもしないことを
あったかのように話す
そうなったら
おしまいだ

今日の始まりに
祈りを捧げたか
自分の心を
清めるために

昨夜の終わりに
手を合わせたか
自分の命を
労わるために

感謝を忘れ
生かされている
そんな当たり前に
気づけなくなって
しまっていないか

愛おしむことに
今日の時間の
少しでも使えたか

自分が正しい
そう思うなら
そのことのために
静かにひとり
働いたか
何かを残す
努力をしたか

誰かが
見てくれている
その繋がりを
想像することが
できているか
いまこのときに





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「冬木立の中で」

大崎タイムス連載詩・2016.12.17掲載より

「冬木立の中で」VOL.94

杉の木立がある
大通りから里山に
少し登ったところ
ちょうどみっつめの
曲がりを過ぎた右手に

先ごろまでは
この反対側の
南に面した
雑木林の落ち葉が
無造作に敷き詰められ
道を飾っていた
いまでは彩を失った
海底の珊瑚のように
その枝だけが
青の空を泳いでいる

晴れた朝は
よく冷える
舗装のない足元で
草は陽を受け白に光り
少し残る緑の色を
より濃く見せている
私はサクサクと
霜柱を踏んで歩いた

「あなたが陰口を」
彼はどうして
そんなことを言う?
明け方に見た夢の
そんな悲しい幻影を
払い除けたくて
寒風に中ったのだが
思い当たらない自責が
むしろ
現実のことのように
私の足にまとわる

この北側の斜面に
黙ったまま
私を見ている木々は
葉を抱え
まっすぐに立って
隣の木々とさえ
何も話すこともせず
こんな私を見ている

道向かいの雑木たちも
冬枯れの裸の枝を
揺らすこともなく
私の心を見ている

冬木立
わたしは
 この冬を受け止める
あなたは
 あなたのままでいい

そんな声が
聞こえた 気がした





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「アノラック」

大崎タイムス連載詩・2016.12.10掲載より

「アノラック」VOL.93

アノラックを着て
父は帰ってくる
魚市場から

木箱とアルミ
手際よく下ろす
小さな店先に
父が帰ってくる

木箱には
鮭が並んでいる

アノラックは
濃紺と決まっていた

さして太くない指を
ざばっと突っ込み
鮭の尾を掴む

そそくさと飯を喰い
アノラックの父は
行商に出て行った

自転車とアルミ箱
前後の荷台に括って
小さな店先から
父は出て行った

アルミ箱には
魚が詰まっている

アノラックは
襟がホワホワしたのに
決まっていた

さして太くない腕を
むっつり伸ばし
ハンドルを握る
父は
何をまとっていたのだ
魚臭いアノラック
わたしは幼すぎて
その貫穿の
本当の意味が
わかっていなかった

今となっては
あの香りが
懐かしい
自転車の少し錆びた
ブレーキの音
あの日の父の背中

父を守った
濃紺のアノラック

それは
父が守ろうとした
わたしたち家族を
守ってくれていた





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「千鳥よ」

大崎タイムス連載詩・2016.12.3掲載より

「千鳥よ」VOL.92

千鳥なぜ鳴く
なぜ群れる
きっとあの日の
悲しみに
居た堪れない
辛抱に

群れ飛ぶことしか
できなくて
鳴きあうことしか
できぬから

千鳥なぜ鳴く
なぜ群れる
きっとあの娘の
呼ぶ声に
忘れてならない
寂しさに

群れ飛ぶことしか
できなくて
鳴きあうことしか
できぬから

千鳥なぜ鳴く
なぜ群れる
きっとわたしの
悔しさに
引き千切られた
思い出

千鳥なぜ鳴く
なぜ群れる

たとえ誰かが
忘れても
わたしは けっして
わすれません!
そのように
泣いてくれている
のだろう

一羽の鳥は
あの日のあなた
千の鳥たちは
あの日に失われた
たくさんのものたち

この空に
模様を残すようにして
千鳥が鳴いている
群れている

千鳥よ 鳴け
群れるのだ

千鳥よ
ありがとう
あの人も わたしも
救われます






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